予防・治療について

2023.09.01 猫の動脈血栓塞栓症について|心臓病が原因で致死率が高い病気

動脈血栓塞栓症とは心疾患のある猫に見られる合併症であり、動脈内に血栓ができて血管が閉塞してしまう、緊急性の高い致死的な病気です。
突然、激しい痛みや麻痺などが生じるため、飼い主さんが驚くことも少なくありません。

今回は、猫で起こる動脈血栓塞栓症について解説します。

原因

猫で見られる動脈血栓塞栓症の多くの原因は心臓病です。
心筋症による血流の異常によって主に後肢に向かう動脈内に血栓が形成され、血管の閉塞が引き起こされます。
肥大型心筋症を発症している猫の33〜50%は大動脈血栓塞栓症が見られるともいわれています。

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症状

動脈血栓塞栓症が起こると、次のような症状が突然現れます。

足を引きずる、動かさなくなる
大声で鳴く(強い痛みがあるため)
呼吸が速くなる、呼吸困難になる
足の先が冷たくなる
肉球の色が白色または紫色になる
体温が低くなる

また、致死率が高いという特徴があり、特に両足に起こった場合は予後が悪く、生存率は30〜40%程度だといわれています。

これらの症状が見られた場合には、早急に動物病院を受診してください。

診断方法      

動脈血栓塞栓症は、次のような検査を行って診断します。

・身体検査
体温や呼吸状態、後肢の脈や疼痛の有無などを確認します。

・血液検査
血栓がある場合に異常が見られる血液検査の項目に変化がないかを確認します。

・超音波検査
心エコー図検査や腹部のエコー検査を行って、心臓の状態や血流障害が起きている場所、血栓の有無などを確認します。

・レントゲン検査
心拡大や肺水腫などの異常がないかを確認します。

治療方法  

動脈血栓塞栓症の治療には、以下の方法があります。

血栓溶解療法
動脈血栓塞栓症を発症した直後であれば、血栓を溶解する薬を点滴や注射によって投与します。ただし心臓に血栓がある場合には行えず、また特殊な薬剤であるために実施できる病院は限られています。

抗凝固療法
発症後の経過時間が長い場合など、上記の血栓溶解療法が難しい場合に行われます。また、血栓の再発予防のためにも用いられます。

外科的血栓除去術
手術によって血栓を取り出します。ただし、全身麻酔によるリスクも高いため実施には十分な検討が必要となります。

バルーン血栓除去術
バルーンカテーテルを動脈に入れて血栓を取り出します。この方法も全身麻酔下で行うため、あまり用いられません。

予防法や飼い主が気を付けるべき点

動脈血栓塞栓症を予防する方法は残念ながらありません。
ただし、猫に心筋症があり、かつ動脈血栓塞栓症のリスクが高い場合には、血栓の形成を抑制する薬を内服することで発生を予防します。

まとめ

猫の動脈血栓塞栓症は、引き起こされると痛みや苦しさが非常に強く、また致死率の高い危険な疾患です。
明確な治療法がいまだ確立されていない難しい病気ではありますが、早急な対応がその後を左右することも多いため、愛猫に異常な様子が見られたらすぐに動物病院を受診しましょう。

宮城県大崎市を中心に診察を行うアイ動物クリニック
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〈参考文献〉
・「犬と猫の救急医療プラクティス」 監修 岡野昇三
・「犬と猫の治療ガイド2015 私はこうしている」 編集 辻本元ら