2024.12.25 猫のFIPが治る時代に|最新治療法と実際の治療事例を詳しく解説
かつてFIP(猫伝染性腹膜炎)は「治らない病気」とされており、多くの飼い主様にとって非常に心配な病気でした。発症すると命に関わることも多く、当時は治療法が限られていたため、診断を受けると愛猫との別れを覚悟せざるを得ないケースもありました。
しかし近年、獣医療の進歩により状況は大きく変わりつつあります。最新の治療薬や治療法が登場し、治らない病気とされていたFIPにも治療の可能性が広がっています。
実際に、新しい治療を受けた多くの猫たちが元気を取り戻し再び健康的な日々を過ごしている事例も増えてきました。
今回は、FIPについての基本的な知識から、その感染経路、そして現在利用できる治療法や、愛猫との日常生活で気をつけたいポイントについて詳しく解説します。
■目次
1.FIPとは?
2.FIPの種類
3.初期症状
4.診断方法
5.治療方法
6.当院での事例紹介
7.予防と日常のケア
8.まとめ
FIPとは?
FIP(猫伝染性腹膜炎)は、猫コロナウイルス(FCoV)が突然変異を起こすことで発症する病気です。この猫コロナウイルスは多くの猫が保有しているものの、ほとんどの場合は無害な腸内ウイルスとしてとどまり、健康への影響はありません。
しかし、まれにこのウイルスが変異し、FIPを引き起こすことがあります。
この病気は進行が早く、適切な治療を行わない場合命に関わることもあるため、早期発見と治療が重要です。
FIPの原因となる猫コロナウイルスは、主に猫同士の接触や糞便を介して感染します。
多頭飼育の環境では猫同士が近い距離で接触する機会が増えるため、ウイルスが広がりやすくなります。また、ストレスが多い生活環境では猫の免疫力が低下し、感染や発症のリスクが高まるとされています。
特に1歳未満の若い猫や、病気や高齢などで免疫力が低下している猫は、FIPを発症しやすいことがわかっています。
FIPの種類
猫伝染性腹膜炎(FIP)は進行性の病気で、大きく「滲出型(ウェット型)」と「非滲出型(ドライ型)」に分けられます。また、これらの特徴が混在する「混合型」も存在します。
それぞれのタイプには特徴的な症状があるため、日頃から愛猫の健康状態に気を配り、異変を早めに察知することが大切です。
<滲出型(ウェット型)>
滲出型のFIPは、腹水や胸水が溜まることで現れる症状が特徴です。愛猫のお腹がいつもより大きく膨らんでいる、または呼吸が苦しそうに見える場合、このタイプのFIPが疑われることがあり、以下の症状に注意してください。
・お腹が膨れる(腹水):お腹に触れると柔らかく感じ、痛みを伴うことがあります。
・呼吸困難(胸水):胸腔内に液体が溜まり、肺が圧迫されることで呼吸がしづらくなります。
・発熱と元気の低下:高熱が続いたり、食欲が落ちたり、だるそうにしている様子が見られることがあります。
<非滲出型(ドライ型)>
非滲出型のFIPでは、臓器に小さな炎症の塊(結節)ができるのが特徴です。滲出型(ウェット型)に比べて進行が比較的ゆっくりで、症状がはっきりしないこともあります。
以下のような症状が見られることがあります。
・神経症状:ふらつき、運動麻痺、けいれんなどの症状が現れることがあります。
・目の炎症:目が赤くなる、視力が低下する、目が濁るなどの変化が見られます。
・発熱と食欲不振:微熱が続く、元気がなくなる、食欲が落ちるなど、普段とは違う様子が見られることがあります。
<混合型>
混合型では、滲出型と非滲出型の症状が混在して現れます。例えば、腹水や胸水が溜まると同時に神経症状が見られるなど、複数の特徴が組み合わさることがあります。
初期症状
FIPの初期症状は特有のものではないため、他の病気と見分けるのが難しい場合があります。しかし、次のような兆候が見られる場合は注意が必要です。
・持続的な微熱
・食欲低下や体重減少
・動きたがらない、元気がない
・被毛が乱れて艶がなくなる
これらの症状を見逃さないことが、早期発見につながります。日頃から愛猫の健康状態をよく観察し、「いつもと何か違う」と感じたら、早めに獣医師に相談しましょう。
診断方法
FIPの診断は非常に複雑で、いくつかの検査を組み合わせて総合的に判断します。主な診断の流れは以下の通りです。
・身体検査
猫の全身状態を観察し、腹水や胸水の有無、神経症状が見られるかを確認します。
・血液検査
炎症反応や臓器の機能異常を調べます。FIP特有の変化が見られることがありますが、確定診断には至りません。
・画像診断
X線や超音波を用いて、腹部や胸部に液体が溜まっているかを確認します。これにより、滲出型(ウェット型)のFIPの可能性を詳しく評価できます。
・腹水・胸水の分析
採取した液体を分析し、FIPに特徴的な性質があるかを調べます。
・PCR検査
猫コロナウイルスを特定するための検査です。信頼性が高く、FIPの診断に重要な役割を果たします。
これらの検査を基に、症状や検査結果を総合的に判断して診断が行われます。
ただし、FIPの診断は一つの検査結果だけで確定することが難しく、最終的な判断には獣医師の経験や専門知識が重要です。
治療方法
かつて「治療が難しい病気」とされていたFIPですが、近年の獣医療の進歩により、治療の選択肢が広がっています。新たな治療法により良い結果が得られるケースも増えており、FIP治療に希望が持てる時代となりつつあります。
<最新の治療法>
最近注目されている治療法として、特定の抗ウイルス薬が挙げられます。
・モルヌピラビル
・GS-441524
・レムデシビル
これらの薬を使用する際には、専門的な知識を持つ獣医師の適切な管理が欠かせません。
当院でもFIP治療を行っており、ご質問やご相談を随時受け付けておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
<補助療法>
FIP治療では、補助療法が治療の効果を高める重要な役割を果たします。
例えば、ステロイド剤(プレドニゾロン、デキサメタゾン)を使用して炎症を抑える方法があります。
また、血流改善薬(ペントキシフィリン、アスピリン)を併用することで、猫の全身状態をサポートすることも可能です。
これらの治療法は、猫の症状や治療の進行状況に合わせて組み合わせて行われます。治療を成功させるためには、飼い主様と獣医師が密に連携しながら治療方針を慎重に決定していくことが大切です。
当院での事例紹介
当院で治療を行ったFIP(猫伝染性腹膜炎)の事例をご紹介します。
1歳のエキゾチックショートヘアのメス猫が、当院へ初めて来院しました。飼い主様からは「数日前から呼吸が苦しそうで、食欲もなくなっている」とのご相談があり、すぐに検査を行うことになりました。
レントゲンと超音波検査の結果、胸水が確認されました。胸水を抜去したところ、細胞成分が少なく、粘性の高い濃黄色の胸水が見られたため、年齢や症状からFIPを疑い、PCR検査を実施しました。
検査結果が出るまでの間、フロセミド(利尿剤)とプレドニゾロン(ステロイド剤)を用いた治療を開始しました。
その後、PCR検査の結果が陽性と判明したため、すぐに抗ウイルス薬を1日2回投与する治療を進めることになりました。
治療を始めて8日後には呼吸が安定し、レントゲン検査でも胸水の減少が確認されたことから、プレドニゾロンを少しずつ減量する方針を取りました。
その後も治療を継続したところ、25日後には胸水が完全に消失し、36日目には胸水の再発がないことが確認されました。
現在は抗ウイルス薬のみで管理を行っていますが、猫は元気を取り戻し、食欲も以前のように回復しています。
このように、適切な治療を行うことで、FIPの症状が和らぎ改善するケースがあることを、この事例を通じてお伝えしたいと思います。少しでも飼い主様の不安が和らぎ、愛猫の健康回復への希望を持っていただければ幸いです。
予防と日常のケア
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、完全に予防することが難しい病気ですが、日々のケアや環境整備を工夫することで、発症リスクを軽減することができます。
<感染リスクを最小限にする>
FIPの原因となる猫コロナウイルスは、猫同士の接触や糞便を介して広がることがあります。そのため、多頭飼育では猫同士が密接に接触する状況を避け、適度なスペースを確保することが大切です。
また、トイレや食器を定期的に清掃し、清潔を保つように心がけましょう。
さらに、新しい猫を迎える際には必ず健康状態を確認し、必要に応じて隔離期間を設けることで感染リスクを抑えることができます。
<免疫力を高める生活習慣>
猫が健康を維持するためには、免疫力を高める生活習慣がとても大切です。バランスの取れた高品質な食事を与え、十分に水分を摂れるように工夫することが基本となります。
また、適度な運動を促して体力を維持することも、健康をサポートするために欠かせません。
<ストレスを軽減する環境作り>
猫にとってストレスは健康に大きく影響します。静かで安心できる環境を整え、窓辺や高い場所など、猫がリラックスできるスペースを用意してあげましょう。
また、飼い主様が日々スキンシップを大切にすることで、猫に安心感を与え、心身の健康をサポートすることができます。
<定期的な健康チェック>
日々の健康状態を観察することも、病気の早期発見には欠かせません。食欲や排泄の状態をこまめにチェックし、いつもと違う様子を感じたら記録をつけ、早めに獣医師に相談しましょう。
特に、年1〜2回の定期健康診断は、FIPをはじめとするさまざまな病気の早期発見に役立ちます。初期段階では気付きにくいFIPも、血液検査や超音波検査を通じて早めに異常を見つけられる可能性があります。
まとめ
かつて「治らない病気」とされていた猫のFIPですが、近年の獣医療の進歩により回復が期待できる病気へと変わりつつあります。
FIPの原因となる猫コロナウイルスについて正しく理解し、感染リスクを抑える生活環境を整えることが、愛猫の健康を守る第一歩です。
愛猫の健康を守るためには、飼い主様と獣医師が一緒に協力しながらケアを進めていくことが大切です。
日々の中で少しでも不安や疑問を感じた際は、ぜひお気軽に当院へお問い合わせください。
スタッフ一同、飼い主様と愛猫が安心して過ごせる毎日をサポートさせていただきます。
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