予防・治療について

2025.06.04  犬・猫が突然ふらつく、ぐるぐる回る…「前庭疾患」の基礎知識を獣医師が解説

突然、愛犬や愛猫がふらついたり、頭を傾けたり、ぐるぐると旋回するような動きを見せたら、飼い主様としては驚きと不安でいっぱいになることでしょう。特に、急にバランスを崩すような症状は「脳の異常では?」と心配になる方も少なくないのではないかと思います。

こうした症状の背景にある代表的な原因のひとつが「前庭疾患」です。犬にも猫にも起こりうるこの疾患は、突然の発症が特徴で、正しい理解と早期の対応が非常に大切です。

今回は、前庭疾患の種類や原因、診断・治療の進め方、家庭でのサポート方法まで、Q&Aも交えてわかりやすく解説します。


■目次
1.前庭疾患の種類と原因
2.診断方法|何をどう調べるの?
3.治療法と予後|どうすれば治るの?
4.ご自宅でできるケアと介護のポイント
5.よくあるご質問(Q&A)
6.まとめ|前庭疾患と向き合うために大切なこと

前庭疾患の種類と原因

犬や猫の前庭疾患には、いくつかのタイプや原因があります。ここでは、基本的な分類や年齢・品種による傾向、よく見られる原因についてご紹介します。

<「末梢性」と「中枢性」の違い>

前庭疾患は、その原因がどこにあるかで「末梢性」と「中枢性」に分類されます。

・末梢性前庭疾患
内耳や前庭神経といった耳の構造に異常があるタイプで、比較的回復が早いとされています。

・中枢性前庭疾患
脳幹など中枢神経に異常があるタイプで、脳腫瘍や脳炎など重大な疾患が隠れていることもあり、精密な診断が必要です。

<年齢や品種による傾向>

犬では高齢になるほど発症リスクが高まる傾向があり、猫では犬ほど一般的ではありませんが、高齢の猫に発症することもあります。

また、以下の犬種は前庭疾患の発症リスクがやや高いとされています。

チワワ
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
シーズー など

<代表的な原因>

前庭疾患の原因には以下のようなものがあります。

中耳炎・内耳炎
腫瘍や外傷
甲状腺機能低下症
特発性(原因不明)

高齢の犬や猫では原因がはっきりしない「特発性前庭症候群」が最も多いとされています。

診断方法|何をどう調べるの?

前庭疾患の診断は、症状の見極めと原因の特定が重要です。ここでは、動物病院で行う一般的な診察の流れをご紹介します。

<初期診断のポイント>

まずは問診と身体検査が基本です。血液検査だけでは判断が難しいため、当院では耳の異常(外耳炎・内耳炎)がないかを丁寧に確認します。

加えて、頭の傾きや眼振(眼球の揺れ)といった神経症状の観察も、診断において非常に重要なポイントとなります。

<CT・MRIの役割>

重度の症状が続く場合や、中枢性が疑われる場合には、必要に応じてCT検査やMRI検査といった精密検査を行います。当院では機器がないため実施できませんが、必要な場合は仙台市内の専門病院をご紹介します。

治療法と予後|どうすれば治るの?

前庭疾患の治療は、原因に応じて選択されます。ここでは、代表的な治療方法と回復の見込みについてご説明します。

<原因に応じた治療法>

中耳炎・内耳炎:抗生物質などによる薬物治療
甲状腺機能低下症:ホルモン補充療法
特発性前庭症候群:主に対症療法を行い、自然な回復を待ちます

当院では、吐き気が強い場合には吐き気止めを使用し、食欲不振がみられる場合には点滴でのサポートも行っています。

<回復の見込みは?>

犬・猫ともに、多くのケースで2〜3週間ほどで症状の改善がみられます
ただし、軽度の後遺症(頭の傾き・ふらつきなど)がしばらく残ることもあり、症状の回復の仕方やスピードには個体差があります。
日々の様子を見ながら、焦らずにゆっくりと回復を支えていくことが大切です。

ご自宅でできるケアと介護のポイント

前庭疾患を抱える犬や猫にとって、日々を安心して過ごせる環境づくりはとても大切です。飼い主様のあたたかな見守りとちょっとした工夫が、回復の大きな支えになります。

<安心して過ごせる環境づくり>

ふらつきや旋回行動がある場合は、ちょっとした段差や滑りやすい床が思わぬケガの原因になることもあります。以下のような工夫で、安全な空間を整えてあげましょう。

滑り止めのマットを敷いて、足元の安定をサポート
・旋回行動がある場合は、サークルで囲ってぶつかり防止
・階段や段差のある場所には、転倒を防ぐための柵やゲートを設置

<食事と排泄のサポート>

体調がすぐれないと、いつもどおりの食事やトイレも難しく感じるかもしれません。無理をさせず、できる範囲で「食べやすさ・動きやすさ」に配慮してあげましょう。

・吐き気がある場合は、少量ずつこまめに食事を与える
食器の位置や高さを調整して、無理のない姿勢で食べられるようにする
トイレの周りに滑り止めのマットを敷き、必要に応じて補助

「いつも通りにできないこと」が続くと、犬や猫も不安を感じるものです。飼い主様のそばで、安心して過ごせる毎日を送ることが、落ち着いた生活の支えになります。

よくあるご質問(Q&A)

Q:ふらついているのですが、散歩に行っても大丈夫ですか?
A:基本的には安静にして過ごすことが望ましいため、しばらく散歩は控えてください。
ただし、外でしか排泄できない犬の場合は、短時間・短距離であれば問題ないこともあります。その際は、リードを短く持ち、足元に十分注意しながら、安心できる環境で付き添ってあげてください。

Q:どのくらいで治るのでしょうか?
A:多くの犬や猫では、2週間から数週間のうちに症状の改善がみられます。
ただ、頭の傾きやふらつきといった症状がしばらく残る子もいて、回復には個体差があります。良くなったり、また少し不安定になったりと波があることもありますが、焦らず、ゆったりと見守ってあげてください。

Q:家に階段や段差があります。どう対応したらいいですか?
A:滑り止めのマットや柵を活用し、事故のリスクを減らしてあげましょう。
ふらつきがあるうちは、段差や階段はできるだけ行けないようにしておくことをおすすめします。特に発症初期は平衡感覚が大きく乱れているため、早めの環境調整がとても大切です。

まとめ|前庭疾患と向き合うために大切なこと

犬や猫の前庭疾患は、突然のふらつきや頭の傾きといった驚くような症状を引き起こしますが、すべてが重篤な病気というわけではありません。高齢の犬や猫によくみられる特発性前庭症候群では、時間の経過とともに自然に回復していくケースも数多くあります。

ただし、中耳炎や脳の異常などが隠れている場合もあるため、早期の受診が重要です。当院では、原因を的確に見極めたうえで治療にあたっています。突然の変化に戸惑うことも多いと思いますが、まずは一度ご相談ください。

宮城県大崎市を中心に診察を行うアイ動物クリニック
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