2025.05.12 赤いしこりは要注意?犬・猫に多い「肥満細胞腫」とは|当院の実例とともに解説
愛犬や愛猫の皮膚に赤く小さなしこりを見つけると「大丈夫かな?」と不安になる飼い主様も多いのではないでしょうか。
こうしたしこりの中には、「肥満細胞腫(ひまんさいぼうしゅ)」と呼ばれる腫瘍が原因のものもあります。肥満細胞腫は、犬や猫に比較的よくみられる腫瘍で、早期発見と適切な対応がとても重要です。
今回は、当院で実際に診断・治療を行った症例をもとに、肥満細胞腫の特徴や治療法、早期発見のポイントについて詳しく解説いたします。
■目次
1.肥満細胞腫とは?
2.肥満細胞腫の主な症状
3.診断と治療方法について
4.【当院の実例紹介】猫の肥満細胞腫
5.早期発見のためにできること
6.よくある質問(Q&A)
7.まとめ|「気になるしこり」は早めの受診で安心を
肥満細胞腫とは?
肥満細胞腫とは、免疫細胞の一種である「肥満細胞」が腫瘍化したもので、犬では皮膚に、猫では内臓に多くみられる傾向があります。
名前に「肥満」とありますが、体型の肥満とはまったく関係ありません。
肥満細胞は、アレルギー反応などに関与する「ヒスタミン」などの物質を内包しています。
このため、しこりに触れることでヒスタミンが放出され、周囲の皮膚が赤く腫れることがあります。
発生に性別差はなく、年齢は8〜9歳での発症が多いものの、若齢でもみられることがあります。好発犬種にはパグ、ボクサー、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーなど、猫ではシャム猫が挙げられますが、どの犬種・猫種にも発生するおそれがあります。
肥満細胞腫の主な症状
肥満細胞腫には「皮膚型」と「内臓型」があり、それぞれで現れる症状が異なります。ここでは、代表的な症状についてご紹介します。
<皮膚型>
・赤みを伴ったしこり
・触ると一時的に大きくなることがある
・まれに元気消失、食欲不振、嘔吐や下痢などの消化器症状を伴う場合も
<内臓型>
・脾臓や消化管に発生
・外から腫瘍は見えず、以下のような全身症状が現れることがある
→ 倦怠感、体重減少、貧血、消化器症状(嘔吐・下痢)など
悪性度が高い場合、転移を起こして命に関わることもあるため、早期の対応が欠かせません。
診断と治療方法について
肥満細胞腫が疑われる場合には、正確な診断をもとに、愛犬・愛猫の状態に合わせた適切な治療方針を立てることが大切です。
<診断は「細胞診」が中心>
肥満細胞腫の診断には、しこりに細い針を刺して細胞を採取・観察する「細胞診」という検査を用いることが一般的です。この検査は麻酔を使わず、痛みも少ないため、動物への負担が軽く日帰りで受けられます。
また、内臓型の疑いがある場合や転移の有無を確認する際には、レントゲンやエコー(超音波検査)などの画像診断も併用します。
<治療の基本は「外科手術」>
治療方法は、腫瘍の状態や進行度に応じて判断されます。主に以下のような要素を考慮して治療方針が決まります。
・腫瘍のグレード(悪性度)
・ステージ(進行度)
・発生部位やサイズ
なかでも、皮膚型で悪性度が低く、転移前に完全に切除できるケースでは、手術による根治が期待できます。
一方で、腫瘍の位置や性質によっては手術のみでの治療が難しい場合もあり、以下のような方法を組み合わせて治療を行うことがあります。
・抗がん剤(化学療法)
・放射線療法
・分子標的薬
特に内臓型の場合には、手術後に追加治療が必要になるケースが多くあります。
いずれの場合も、愛犬・愛猫の負担を考慮しながら、効果的な治療を選択していくことが大切です。
【当院の実例紹介】猫の肥満細胞腫
ここでは、実際に当院で診察・治療を行った猫の肥満細胞腫の症例をご紹介します。
・動物種:猫(MIX)
・年齢:11歳10か月
・性別: 避妊済メス
<ご相談のきっかけ>
飼い主様が、数日前から右前肢の手首付近に小さなしこりを確認されたとのことで、ご来院くださいました。日常生活には支障はなく、元気や食欲にも特に問題はないとのことでしたが、念のため詳しく検査を行うことにしました。
<診断・治療の流れ>
▼触診・視診
しこりの大きさは約1cm × 0.7cm。皮膚表面にやや赤みが見られる小さな腫瘤でした。
▼細胞診の実施
しこりの内部から細胞を採取して顕微鏡で確認したところ、肥満細胞腫が強く疑われました。そのため、飼い主様と相談のうえ、後日全身麻酔下での摘出手術を行うことになりました。
▼手術と病理検査
手術は無事に終了し、摘出した腫瘤は病理検査へ回しました。検査の結果、細胞診の所見と同様に「肥満細胞腫」であることが確認されました。
▼現在の経過
腫瘍は周囲の組織を含めて完全に切除できたことから、追加治療は行わず、定期的な経過観察を続けています。現在も元気に過ごしており、再発の兆候は見られていません。
このように、飼い主様が早い段階でしこりに気づいてくださったことと、すみやかに診断・治療へ進めたことが、良好な結果につながったと考えられます。しこりが小さくても「なんとなく気になる」と感じたときは、どうかその感覚を大切にして、ぜひ早めにご相談ください。
早期発見のためにできること
肥満細胞腫は、残念ながら予防が難しい腫瘍です。だからこそ、できるだけ早期に発見し、適切な治療に進むことが何より大切です。
<健康診断の活用>
康診断では、触診や各種検査により、見えないしこりや内臓の異常も早期に把握できます。肥満細胞腫は若い犬や猫にも発生するため、基本的に1年に1回、7歳を過ぎたら半年に1回を目安に健康診断を受けるようにしましょう。
<ご自宅でのチェック習慣>
皮膚型の場合は飼い主様チェックで見つかるケースも少なくありません。日頃のスキンシップの中で、以下を意識してみてください。
・被毛をかき分けて皮膚の状態を確認する
・しこり・赤み・腫れがないか、全身をくまなくやさしく触ってみる
もしも、しこりや異変に気づいた場合は、なるべく早く動物病院にご相談ください。
よくある質問(Q&A)
Q:肥満細胞腫は悪性腫瘍なのですか?
A:基本的には悪性腫瘍として扱われていますが、なかには悪性度が低いタイプもあるため、しっかりと検査を行って判断することが大切です。
Q:しこりがあっても、元気そうであれば様子を見て大丈夫でしょうか?
A:見た目だけでは判断がつかないため、しこりの存在に気がついたら早めの診察をおすすめします。
Q:腫れが急に大きくなったり、赤くなったりしたら?
A:炎症や腫瘍が急激に進行していることも考えられます。早急に動物病院を受診しましょう。
Q:治療費はどのくらいかかりますか?
A:手術のみの場合、1箇所あたり2.5〜4万円程度が目安です。加えて、血液検査・レントゲン・病理検査などの費用が発生することもあります。詳細はご相談ください。
まとめ|「気になるしこり」は早めの受診で安心を
犬や猫のしこりは、すべてが腫瘍というわけではありませんが、中には悪性の腫瘍が隠れていることもあります。特に肥満細胞腫は、見た目だけでは判断できないケースが多く、「気になる」段階でのご相談が何より大切です。
当院では、しこりの診察や検査、治療まで一貫して対応しております。「最近、気になるしこりがあるかも…」と思ったら、ぜひお気軽にご相談ください。
宮城県大崎市を中心に診察を行うアイ動物クリニック
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